蟹江 憲史氏 慶応義塾大学教授 蟹江 憲史氏 慶応義塾大学教授
木南 陽介 株式会社レノバ 代表取締役社長CEO 木南 陽介 株式会社レノバ 代表取締役社長CEO

サステナビリティ対談

地域の足し算が世界になり、持続可能な地球に変えていく 地域の足し算が世界になり、持続可能な地球に変えていく

レノバは、太陽光や風力、や木質バイオマス、地熱など、自然の力を引き出す再生可能エネルギーの発電事業を通じて、持続可能な社会をつくることを目指しています。2000年の創業以来、常に環境への貢献、地域との共生を第一に事業活動を続けてきました。
そして今、再生可能エネルギーは、SDGsの達成に大きな役割を果たすものとして注目を集めています。環境政策学者の蟹江憲史氏とレノバCEOの木南陽介が、SDGsを取り巻く現状や、再生可能エネルギーとの関係について語り合いました。
SDGsとは?

幼い頃の原体験が、今の仕事のきっかけに 幼い頃の原体験が、今の仕事のきっかけに

木南
蟹江さんは、日本におけるSDGs研究の第一人者として知られています。どのようなきっかけで地球環境に興味を持ち、そしてSDGsに出会われたのでしょうか?
蟹江氏
小さい頃に住んでいたインドネシアでの体験がきっかけです。インドネシアの日本人が経済的に豊かな生活をしていた一方で、現地の子どもたちは、用を足す川で食器を洗うのが当たり前という毎日を送っていて。その経済格差を目の当たりにして、「すごく変だな」と思ったのです。こうした原体験から国際関係に興味を持つようになり、国連をはじめとする国際機関について学び始めました。大学院での研究が本格化する時期に京都議定書の国際交渉が行われていて、温暖化に対する外交を題材に研究を進め、環境問題に向き合うようになりました。
木南
はじめから環境について研究されていたわけではなく、国際関係から環境問題へと入っていかれたのですね。
蟹江氏
はい。環境を起点に様々な問題について考え続けてきました。そうした中で、環境だけでなく、経済や人権なども含めた持続可能性(サステナビリティ)やSDGsへの社会的関心が高まり、自然と研究が深まっていきました。
木南さんはいかがですか? 環境問題に興味を持つきっかけやターニングポイントのようなものがあったのでしょうか?
木南
何か劇的な出来事があったとかではないのですが……。僕の場合も蟹江さんと同じように、育った場所に影響を受けているなとは感じますね。僕は、神戸の六甲山のふもとにある街で育ちました。1970年代、80年代ですから山を切り開いて住宅地を作り、その土で海を埋め立てるような開発が真っ盛りでした。

鉄鋼所の影響で赤潮が発生していて、近くの釣り場では大人から「釣った魚は食べないほうがいいよ」と言われたことも。子供心に「なぜこういうことが起こるんだろう?」という疑問がわいていました。その延長で「地球環境」というものを考えるようになり、1993年、京都大学の総合人間学部に入学し、環境について幅広く学びました。

SDGsが広まって、やっと環境問題が“ど真ん中”にやってきた! SDGsが広まって、やっと環境問題が“ど真ん中”にやってきた!

木南
ここ1、2年で、日本にも急激にSDGsが浸透し始めましたよね。蟹江さんは、この状況をどのようにご覧になっていますか?
蟹江氏
正直なところ驚いています。2015年にSDGsができたときは、ここまで広がるとは思っていませんでした。
SDGsが順調に広まった理由は、環境と、働き方改革や女性の活躍推進など社会問題や経済につながる事柄が、一体のものとして扱われているからだと思います。以前は環境問題というと、一部の環境に強い関心のある人たちだけが盛り上がり、経済界からは敬遠されるようなものでした。ところがSDGsによって環境問題と経済や人権の問題が包括的に扱われるようになって、ガラリと状況が変化した。経団連がSDGsのポスターを貼って会見に臨んだり、企業のトップがSDGsのバッジをつけ始めたり。これまでにない光景が見られるようになりました。
木南
そう、これはすごい変化ですよね。本業で得た成果を社会に還元する追加的な社会貢献活動や義務的なCSRではなくて、企業経営のど真ん中のテーマとして扱われるようになってきた。僕はずっと、環境や持続可能な社会は世の中の真ん中にあるべきテーマだと思っていたので、「ようやくここまで来たな」という思いです。
蟹江氏
そもそも、真ん中に来ないとまずい状況ですよね。2019年に国連気候行動サミットやCOP25で演説し注目を集めたグレタ・トゥーンベリさんは、「サイエンスの声をよく聞きましょう」ということを繰り返し訴えています。「サイエンスの声を聞く」というのは、要するに「科学者=専門家の声を聞く」ということ。専門家の9割以上は気候変動が限界のところまで来ている、危機的な状況になっていると言っています。実際に、毎年災害が増えているし、その強度も増しています。本当は、「これからSDGsに取り組みましょう」なんて呼びかけをする段階ではない。すぐに行動に移さないと。この10年でなんとかしないと本当にまずいところまで来ていると思います。

SDGsの推進に欠かせないのは、本音・本気の“オープンな議論” SDGsの推進に欠かせないのは、本音・本気の“オープンな議論”

木南
SDGsを推し進めるためには、どんなことが必要だと思われますか?
蟹江氏
必要なことはいろいろありますが、なかでも“オープンな議論”は大切だと思いますね。日本の場合、権力のある人が中心になって結論ありきで議論を進めがちです。そうではなくて、関わる人全員がフラットに意見を出し合い、議論し尽くす必要があると思います。
木南
そういえばこの間、ドイツが石炭をゼロにすると発表しましたね。産業界、議員、市民、NGO、科学者、事業者など、ありとあらゆる関係者が入って議論し尽くし、「石炭はナシにしよう」「でもいきなりは無理だから2038年を目指そうね」と決めたとか。目標達成までの時間を十分に取って産業のトランスフォーメーションの計画を立て、石炭火力がなくなって失業する人に対しては国の財源4兆円を使って痛み止めを行うことも決めている。
蟹江氏
そう、欧米を中心とした国々はさまざまな形で徹底的に議論をしているんですよね。日本もこれをやらないと置いて行かれてしまうと思います。SDGsは、日本がこれまで苦手としていた、フラットな関係でのオープンな議論をするよいきっかけでもあります。こうした議論は、特にエネルギーの分野でやらざるを得ないものになっていくでしょう。なぜなら、地球環境は待ったなしの状態だから。特に日本は、再生可能エネルギーを普及させないと、もうもたない状況にまで追い込まれつつあります。議論を避けて今の延長で【※発言を緩和】やっていくのか、今、未来に向けた議論に向き合うのか。真剣に考えて行動しなければなりませんよね。
木南
2022年に発表される次のエネルギーミックスにおいては、そのあたりに「国家・国民の意思」が表現されてくることを期待したいですね。

事業そのものがSDGs 地域を大切にしたレノバの取り組みとは 事業そのものがSDGs 地域を大切にしたレノバの取り組みとは

蟹江氏
レノバは再生可能エネルギーを扱う会社です。事業そのものがSDGsと密接に結びついていますよね。
木南
そうですね。我々のビジョンは「グリーンかつ持続可能なエネルギーシステムをつくること」。ビジョンを達成することで、社会課題を解決することを目指しています。SDGsの目標でいうと、「7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「13.気候変動に具体的な対策を」のふたつが当てはまるところでしょうか。

もうひとつ、特に力を入れているのが地域との共生です。SDGsですと「9. 産業と技術革新の基盤をつくろう」「11.住み続けられるまちづくりを」が当てはまるかと思います。ほとんどの地域は、少子高齢化や人口減少に苦しんでいます。何もしなければどんどん衰退していくような状態で、みなさん、どうにかしてその流れを食い止めなければならないと試行錯誤されています。ちょうどそのタイミングで、再生可能エネルギーの推進機運が高まってきたのです。地域に潤沢に存在する太陽の光や海風をエネルギーに変え、利益を生むことができるようになりました。

蟹江氏
そもそも太陽光や風といった資源自体が、降り注いでいる限りは持続していくものですもんね。持続可能な資源や働きやすい環境・仕組みがあれば、そこに魅力を感じる人も増えていくでしょう。暮らす人が誇りに思える、そんな産業に育っていくと素晴らしいですよね。

地域とともに、考え生きる。それが世界を変えていく 地域とともに、考え生きる。それが世界を変えていく

蟹江氏
既に全国で20か所以上の地域で発電所の開発を進めておられていますが、地域のみなさんとの対話の中で、なにか木南さんが心掛けていらっしゃることはありますか?
木南
地域に住む方々の暮らしと発電所がどうつながっていくかを、何度も顔を合わせて、丁寧に説明するようにしています。例えば、バイオマスの発電所ができると、燃料として地元の木材チップを大量に消費するので林業が活発になる。すると物流が増えて、雇用が増える。今度は車の整備や燃料の消費も増える。海外燃料を受け入れる港湾関係にも恩恵がある。そういう産業のつながり、地域の活性化の波及のイメージをわかりやすく話しています。
蟹江氏
自分たちの生活や暮らしにどのように関わってくるのか、繋がっているのかがわかるよう、自分事に翻訳するわけですね。
木南
そうです。また、この仕事が今の世代のためだけではなくて、次世代、「皆さんの子供や孫の世代のために」あるということもお話しします。地域の意思決定者は比較的高齢の方が多いですが、「あなたのため」以上に、「自分たちの子孫のため」ということを大事にされています。当社の発電所ができたことで、「これで安心して息子に林業を継がせることができる」と言ってくださった社長さんの言葉は今でも忘れられません。
蟹江氏
素敵なエピソードですね。次世代の話、とても重要だと思います。なにせSDGsは地球を次世代につなげる取り組みですから。今のお話、すごく本質的だなあと思いました。
木南
ありがとうございます。地域だけでなく様々な企業や組織と、まだまだやらなければならないことがたくさんあるのですが……。まずは現在秋田県で取り組んでいる国内最大規模の洋上風力発電施設を、地域の方々と協力して実現したいと思っています。また、国内の様々な電源の再生可能エネルギー発電所の開発・運営実績を活かして、海外、特にアジアでの開発を進めています。
蟹江氏
そのときに生きるのが、きっと、先ほどおっしゃっていたような“対話”なのでしょうね。行ってつくって、はい終わり、ではなく、対話をしながら理解を深めて、互いに寄り添いつつ共存共栄をしていくという。
木南
そうですね。地域での取り組みの足し算が国単位の活動に、各国での活動の足し算が、世界全体でのインパクトにつながる。僕は、地域での一つひとつの取り組みの足し算が、結果として地球を持続可能にすると考えています。ですから、目の前にある地域と人に目を向けて。ひたむきに、ひたすらに、できることのすべてを尽くして、着実に、事業を進め行きたいと考えています。
2020年1月
2030年までに1,000万tのCO2削減に
レノバは貢献します。